開口時と閉口時の両方で“カクッ”という音が生じる状態を指します。以下に、原因、診断、治療法、治癒機転、予後について体系的に説明します。
■ 概要:レシプロカルクリックとは?
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顎関節で発生する異常な関節雑音の一種。
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開口時にクリック音、閉口時にも同様のクリック音が生じる。
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音は通常、**ディスクの前方転位と復位(整復)**に関連して起こる。
■ 原因
主に**関節円板の前方転位(anterior disc displacement with reduction)**によって起こります。
【機序】
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開口初期:関節円板が前方にずれており、下顎頭はディスクの後方にある。
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開口中盤で整復:顎頭がディスクの下に“スライド”して戻るときにクリック音。
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閉口時終盤:ディスクが再び前方にずれて、顎頭から外れる際にもう一度クリック音が生じる。
【誘因】
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外傷や過度の開口
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ブラキシズム(歯ぎしり)
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咬合異常
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ストレス、筋緊張
■ 診断
1. 問診
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音のタイミング(開口・閉口両方で音がするか)
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痛みの有無
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関節のロックや開口障害の有無
2. 視診・触診
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開口・閉口運動中のクリックの触知・聴取
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開口軌跡の逸脱(S字型、C字型)
3. 画像診断(必要に応じて)
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MRI:ディスク位置と動きの観察に有用(最も確実)
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CBCT:骨の形態異常や関節腔の状態を評価
■ 治療法
症状の重さや経過に応じて段階的に選択されます。
1. 保存療法(第一選択)
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スプリント療法:スタビライゼーション型または前方牽引型
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理学療法:温罨法、関節運動訓練
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薬物療法:NSAIDs、筋弛緩薬
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生活指導:開口制限、咬合の負担軽減、姿勢改善
2. 非観血的治療
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関節腔洗浄(arthrocentesis)
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関節内注射(ヒアルロン酸やステロイド)
3. 観血的治療(難治例)
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関節鏡視下手術
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関節円板整復術や切除術
■ 治癒機転
レシプロカルクリックがある場合でも、ディスクが適切に整復されていれば、症状の進行を防ぐことが可能です。保存療法により、筋緊張の緩和や関節適応が進むことで、関節音が軽減あるいは消失することがあります。
■ 予後
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痛みを伴わないレシプロカルクリックのみの場合、経過観察でも予後良好なことが多い。
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痛みや開口障害を伴う場合は、適切な治療により改善が見込めるが、ディスクの構造的変性がある場合は慢性化のリスクもある。
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放置した場合、将来的に**ディスク非復位(クリックが消失)や関節変形(変形性関節症)**に進行することもある。
■ 補足:レシプロカルクリックと他の関節雑音の違い
| 音の種類 | 原因 | 臨床的特徴 |
|---|---|---|
| レシプロカルクリック | 前方転位・整復あり | 開閉口両方でクリック音 |
| シングルクリック | 軽度の整復 | 通常は開口時のみ |
| クレピタス(摩擦音) | 関節軟骨の摩耗 | ザラザラ、バリバリという音 |
| ポッピング | 高音で突然 | 円板の急激な整復 |
